あおの世界は紫で満ちている

自分の趣味にどっぷり沈み込んだ大学生のブログです。歌舞伎と宝塚も好き。主に観劇レポートなど。

バイ・バイ・バーディー 初見感想

2022年10月22日 『バイ・バイ・バーディー』

KAAT神奈川芸術劇場17時30分開演

 

 

私はミュージカルが好きだ。舞台が好きだ。小さい頃からお母さんに連れ回され、おばあちゃんに手を引かれ、たくさんの舞台を観てきた観劇オタクだ。大学生となった今ではホイホイ遠征するし、観られなかったら時間とお金が許す限り配信を買う。それでも、無理して遠征したり、お金を払って観た配信の全部が全部名作で、全部が全部にハマったかと言うとそうでは無い。

舞台にも当たりハズレがある。グッと引き込まれて、帰ってこられなくなるくらいのものもあれば、スンッと1歩引いた目で見てしまう舞台もある。こればっかりは、好みの問題でもあるので難しいところではある。人それぞれに基準があって、人それぞれに判断できるものだ。

正直に言う。私にバイバイはハマらなかった。

世界で1番大好きな自担の初主演ミュージカルでも、ハマらなかった。とは言え、面白かったし楽しかったのは事実だ。ただ、ド真ん中のミュージカルと言うには今1歩足りない。そんな印象だ。

ミュージカルにはミュージカルの発声があり、歌い方がある。それは劇団によって違ったりもするが、根本は同じだと私は思う。

「マイクを通して真っ直ぐに伸び、会場を包み込むように響く澄んだ声」これを、私は勝手に、「ド真ん中の歌声」と呼んでる。舞台で発された声が真っ直ぐ観客一人一人に届くような声、聞いていて心地の良い安定した声……バイバイには「ド真ん中の歌声」を持つ人が少なかった。

これは、発声の問題なので、決して歌の善し悪しについて言及しているものでは無い。カンパニーのみなさんは、全員歌が上手かった。

ただ、それとミュージカル向きの歌声か否かは別だ。私には、バイバイを王道のミュージカルであるとは言えない。

しかし反面、ダンスはとても良かった。全員がきっちり踊れるし、魅せ方を知っている。バレエにしろジャズダンスにしろ、型は違えど『魅せる』と言う1点において共通するものであるので、その一流が集まれば必然的に良いものが生まれる。全編通して、舞台が踊っているような作品だった。

だから『バイ・バイ・バーディー』は、ミュージカルと言うよりも、しっかりとしたストーリーのあるダンスショーであると感じた。

主人公のアルバートは、情けない男だ。それはもう、引くほど情けない。大半の女性が、絶対に結婚したくないというであろうタイプの男である。優柔不断と言えば聞こえはいいが、実際は二枚舌1歩手前の骨なしマザコン野郎と言っても過言では無い(過言です)。ほぼ終始、しゃんとしろよ!はっきりものを言え!大人の男だろ!?と思わせてくれた長野くんはすごい。舞台上には長野博ではなく、アルバート・ピーターソンがいた。近年稀に見るヘタレ野郎だったが、客にそういう印象を与えることは難しい。どうしたって愛嬌が残ってしまったり、振り切れなかったりするからだ。その点、長野くんは全部をクリアして来た。さすが私の自担(贔屓目)。
相手役のローズはと言うと、男勝りで快活で仕事の出来る人ではあるけど、男を見る目と自制心がなく感情的な、典型的なアメリカの女の人。とにかく綺麗だが、特大の刺がある。まさにローズ、薔薇の花のような女性だ。

いやぁ……この2人が上手くいくとは思えない。うん。でも、本人が愛し合ってるからいいんだけど…いいんだけどねぇ………結婚したって、毎日ローズのイライラが爆発して、3ヶ月に1回は家出騒動が起きる結婚生活になる、に100万ペソ()

キーマンであるコンバット・バーディーは、天性のロックスター。だけどこいつはダメだ。人間が成ってない。破天荒でめちゃくちゃで、もうどうしようもないけどかっこいい。エルヴィス・プレスリーの完全コピーで笑ってしまった。

物語の舞台となる田舎町には、在りし日の理想的なアメリカが詰まっている。そこにいるティーンエイジャー達はすごく子供で、無邪気で、可愛らしい。

本当にドタバタした、笑えるどコメディーだけど、要所要所に社会問題が入り込んでくる。あと、欧米でよく見られる「読書階級の常識」も盛りだくさんだった。
例えば、1幕でハリー・マカフィーが「マグナカルタは破壊された!暴君ネロの復活だ!ローマを燃やすぞ!(要約)」って言ってたのは多分、ローマを火の海にしたローマ帝国5代皇帝のネロのことだよなぁとか、同じくハリーの「俺が戦争に行ったのは18の時だ!」とかも、ハリーの言う「戦争」は第二次世界大戦のことで、今回徴兵されるコンラッドが行くのはベトナム戦争だってことの違いを説明無しで理解しなければならないこと、アルバートのお母さんが、極端なルッキズムと若干のレイシストである事とか。やっぱそこがブロードウェイ直輸入なんだなと感じた。
そう、バイバイは、良くも悪くも典型的ブロードウェイミュージカルなんだと思う。ブロードウェイは、それが喜劇だろうが悲劇だろうが、隙あらば社会問題を盛り込んで来ようとするから、私には、そこが少し苦手だったりする。日本はそこまで人種とか宗教とか意識することなく生活できる国だけど、アメリカは人種のるつぼだ。多分、本家の『Bye Bye Birdie』でローズ役の人はヒスパニック系の女優さんになってると思う。
目で見たり、肌で感じたりする文化の違いがあるまま脚本だけ輸入するから、どうしても想像力で補わなきゃいけない。これはどんな海外ミュージカルにも言えることだ。
そして、こういった齟齬は舞台設定にも影響すると思う。そもそも馴染みのないアメリカ文化で、全く知らない時代のスーパースターを題材にされるとなると、ストーリーがものすごく遠く感じる。

私は『監獄ロック』などでエルヴィス・プレスリーを知っていたが、知らないって人もいるんじゃないだろうか?’60年代を舞台とした作品によく出てくる『エドサリヴァン・ショー』もまた然り。日本の『8時だョ!全員集合』とか『シャボン玉ホリデー』的なものだと理解しているが、日本の番組で例えたってやっぱり遠く感じる。で何が言いたいかって言うと、そういう馴染みの薄い題材を輸入してくるからには、何も知らない他文化圏の人間(つまりここで言う日本人)にも共感を呼ぶような説得力を持たせなければならないということ。

この点、バイバイは及第点を超えていると思う。特に、エルヴィス・プレスリーの解像度が高かった。「コンラッド・バーディー」という役名であったものの、エルヴィス・プレスリーそのものだった。くねくねした腰の動きや歌い方の癖、ナルシシスト全開な様子など。まるで本人だ。演じている松下さんの、ド真ん中の歌声も好きだ。バイバイは、エルヴィス……もとい、コンラッドがいなければ始まらない。加えて、思春期を迎えるティーンエイジャー達の万国全世代共通の感覚を上手く描けていたから、話に無理が無く楽しめた。コンラッド・バーディーに熱狂する少女たちの姿に、V6ひいては長野博に発狂する自分を見て、共感の嵐だった。スイートアップルの子供たちは、自分だけが主人公の自分の人生を謳歌していた。良いことだ。羨ましい。
バイバイの主人公はアルバートだ。けれど、ローズの登場が多くてソロも多かった。これは、ローズを通してアルバートを客観的に描くということなんだと思う。霧矢さんのキャスティングは大正解だ。多分、霧矢さんがアルバートをやっても、長野くんがローズでも映えた気がする(byヅカオタ脳)OZの時も思ったけど、やっぽり元トップスターは誰かを従えて真ん中で踊るのが良く似合う。宝塚で培われた踊りと歌声は、本物のミュージカルスターのそれだった。
そう、ダンスショーのようだったからこそ、演者さんの基礎が何なのががはっきりした。例えば、ターンひとつとっても。体全体をねじるようにしてコンパクトにシュっときめるジャニーズのターンは、ジャズやPOPを基礎としていて、顔を残すように素早くパッと周りの空気ごと回転させるように宝塚のターンは、バレエを基礎としてるんだなって如実に現れてた。発声とか、演技も同じことが言える。舞台畑なのか映像畑なのかはどう演技するかに現れるし、ユニゾンで歌うことに慣れているのかソロで歌うことに慣れているのかでも違いがでる。だから、劇団単位とか事務所単位とか一門単位の舞台もいいけど、雑多なメンバーが集まるカンパニーのミュージカルは楽しいんだ。

余談だが、個人的に、最近は歌舞伎や宝塚ばっかり見ていたので、純粋な男女が入り混じる舞台を久しぶりに見た。男が演じる女も、女が演じる男も、両方が両方の究極の理想が詰まっているから、当然夢のような話だし、夢のような理想できな男と女がそこに現れる。けれど、男が男を演じて、女が女を演じる舞台では、極端な理想が押し込まれていない分すごく自然なお芝居になっていると感じた。どちらも好きだ。どっちにも良さがあるので、私は観劇をやめられない。

結末的には大団円…!と言うより、アルバートが思春期の時に乗り越えるべきだった課題をやっと乗り越えたという感じ。

スイートアップルに住むティーンエイジャー達は、思春期に少年少女から大人に変わろうとしていた。いつまでも子供でいて欲しいと望む親たちの理想をはねのけて、自分で恋をして、自分で変わろうとしていた。でもアルバートは、会社を経営していても教師になれるくらいの頭を持っていても、母親の呪縛から逃れられなかった。メイは、子供思いの母親なんかじゃない。息子を自分の所有物だと思っている、ただの毒親だ。いい年をして、公的にも私的にも母親を「ママ」と呼び、息子を「坊や」と呼ぶ親子関係が健全なはずがない。とっくに自立しているローズがアルバートにイライラするのは当然だし、母親に雁字搦めにされているアルバートが頓珍漢なことをしてしまうのもしょうがない。それでも最後の最後で母親を振り切れたアルバートは、立派だと思う。

この話は、自由奔放なロックスターに振り回されるマネージャーと、巻き込まれた田舎町の物語であると同時に、親から独立する「子供」の話だ。そのどちらにも「破天荒で何のしがらみもない、自由の象徴」であるロックスター・コンラッドが必要なんだ。自由が過ぎて縛られることになったコンラッドと、しがらみから解放される「子供」の対比は美しい。

だからやっぱりバイバイは、『さよならバーディー』というタイトルで、ローズの出番が多くて、マカフィー家が話題の中心だけど、アルバートのお話なんだ。

 

ところで、ですよ……問題は。ラストシーンなんですよ!!!問題は!!!

聞いてない!!!!聞いてないよ私は!!!キスシーンがあるなんて聞いてないよ!!!!!!!!今まで長々と語ってきましたけどね!ええ!全っっ部吹っ飛びました!分かりますか??時が止まった感覚が!!自担が!目の前で、元宝塚トップスターにキスしてんですよ!!!!
私はリアコじゃないんで、リアコでは無いけどさすがにぶっ飛んだよね……ええ、白状しましょう。きりやんさんにめちゃくちゃ嫉妬しました!!!変な気持ちになっちゃったじゃん!!ショックでちょっと泣いたよ!!!うわぁぁぁ!!!!!

と、取り乱しました……すみません。

アルバートがローズにプロポーズするシーン。片膝をついて指輪を差し出し、「愛しているから結婚してほしい」と言う。少女漫画から抜け出て来たのかと思った。世界で一番好みの男が、夢みたいなことしてる。私はオペラグラスを、眼球がめり込むんじゃないかって勢いで覗き込んだ。ら、キスしてた。チュッて。軽いバードキス。死んだ。衝撃で手が震えた。雷に打たれたのかと思った。

長野くんのキスシーンなんて何度も見てる。最初の失恋がレナとダイゴのキスだったし、『彼らを見ればわかること』に至ってはベッドシーンまであった。でも、それとこれとは別なんだ。生で見る舞台と映像には雲泥の差がある。OZでもキスシーンあっただろ、とも思ったけど、やっぱり違う。あと、先にも書いた通り、最近は宝塚と歌舞伎しか見てなかったので余計に衝撃的だった。宝塚のキスシーンは顔を近づけるだけの「ふり」だし、歌舞伎に関してはそもそも基本的にキスシーンはほとんどない。いやぁビビった……長野くんも男の人だったんだって改めて意識してしまった……本当に、最後の最後で全部持ってかれた。死んでしまうよこんなん。席が遠かったのが逆に救いだった。オペラグラスを挟んでもあの衝撃……自慢じゃないが、肉眼で直視できる自信がない。叫ばなかった私を褒めて欲しい。

フォエプラ以来4ヶ月ぶりに生で見る長野くんは相変わらずカッコよくて、完璧なEラインは健在で、やっぱり私が世界で一番好きなのは長野博なんだなって改めて思えた。へたれを演じさせたら天下一品だってのは、発見だったなぁ…やっぱり演技うまいよ、ひろし。
バイバイは、良くも悪くも王道のブロードウェイ作品だけど、ミュージカルと言うよりはダンスショーだった。初見でガツンと殴られるような衝撃も、食いつくようにまた見たいと思うような作品ではなかったけれど、後からゆっくりじんわりと楽しかったと思い出せる、もう一度今度は細部まで詳しく見てみようと思える作品だった。暖かい温泉のような作品だった。次に行く大阪公演が、すごく楽しみになった。

確かにバイバイは私にとって、パシッとハマる作品ではなかった。でも嫌いなわけでも、この作品が駄作なわけでもない。むしろ良作だ。ダンスシーンは華やかで魅力的だった。

あぁ、そうだ、楽しかったんだ……

そう感じられる舞台だった。

 

ここまで長々としたまとまりのない文書を読んでくださりありがとうございます。以上、初見直後の殴り書きでした!