あおの世界は紫で満ちている

自分の趣味にどっぷり沈み込んだ大学生のブログです。歌舞伎と宝塚も好き。主に観劇レポートなど。

バイ・バイ・バーディー 2回目の衝撃

2022年11月5日『バイ・バイ・バーディー』17時30分開演

 

初見直後の感想はこちらからどうぞ

aoino-sabu.hatenablog.com

 

で…ですね……いやぁ………正直めちゃくちゃびっくりしました………だって格段に上手になっていたんだもの!!!

 

「わぁこのジェンヌさんまた歌がうまくなってる!」と感動したり「また一段と型がしっかり身についてきたな……」と将来が楽しみになったり「前とは違うアドリブで来た!」と感心したりと、公演中のカンパニーの成長は、観劇の醍醐味の一つだ。だから、同じ作品でも何度も観たいし、進歩する舞台を肌で感じることは最大の楽しみともいえる。だが、それを踏まえた上でも、バイ・バイ・バーディー(以下バイバイ)の変化はすさまじかった。まるで別物に感じられるほど、すさまじい進化だった。

最初にそれを感じたのは、アルバートのソロである『笑うだけで』を聴いた時だ。

洗われたような感覚を覚えた。泣いた。しっかりと納まる所に納まっている音を聴いた時、探し物が見つかったんだと思った。ずっと見たかった長野博がそこにいた。見直した。惚れ直した。10月22日に見た『バイ・バイ・バーディー』は何だったのかと思うほど、完成されたミュージカルがそこにあった。

音響の違いがこの差を生んでいるのかと、パッと思い浮かんだのはそんな愚かな考えだった。森ノ宮ピロティホールの音響と、このカンパニーとの相性が抜群であったのかと。しかし比較対象は、劇団四季の外箱公演も宝塚歌劇団の東上公演も催される、天下のKAAT神奈川芸術劇場だ。音響にそこまでの差が出るとは思えない。

カンパニーの実力が、飛躍的に向上したんだ……と気づいた時、震えた。

日本初演で、ほぼ初顔合わせのカンパニー。公演のはじめの方がフワフワしてしまうのは、まぁ、わかる。分かるけれど、初見の私は、そのフワフワとした…少し具体的に言えば、ダンスの完成度は高いものの、歌がそこに着いてきていないアンバランスさ、のようなものが、バイバイの完成形でカンパニーの限界値かと思った。見誤っていた。

ダンスショーだった作品が、ミュージカルに化けた。

ぐんぐん伸びて、想像以上の成長を見せてくれたバイバイが、大好きだ。ぜひ同じメンバーで再演してほしい。だってきっと、まだまだ伸びる。

ただ、大阪公演の完成度を目の当たりにすると、やはり最初からその完成度に持ってきてほしいと思わずには居られない。その点少し惜しいなと感じてしまうが、最終的な『バイ・バイ・バーディー』はまさに傑作と言っても過言ではないものであったし、初日から千秋楽までをなべて考えても、良作と言えるだろう。

その、飛躍的な成長を見せるカンパニーの座長である長野くんの声。少しハスキーで、柔らかくて、優しい声が私は大好きだが、ミュージカルに向いてるかと問われたらそうではない。それでも、きちんとハマれば綺麗だし、聞けば聞くほどクセになる。根底にあるアイドルとしての表現力と演技力で、歌声に色を出すこともできる。

近年稀に見るくそ野郎ことアルバートが、そのダメ男っぷりを存分に発揮していても、それがコメディとして成立し、お客さんも大いに笑えたのは、長野くんが演じていたからこそだと思う。それに、公演中一番伸びているのは多分、長野くんだ。ミュージカルの型に、パシッとハマるまでに時間はかかるかもしれないが、ハマってしまえばぐんぐん伸びるし、しっかりと魅せてくれる。あぁ好きだ。大好きだ。

I love you♪首ったけよ♪はかりきれないほど愛してる♪(『ガイズ&ドールズ』A Bushel and a Peckより)

と、脳内のアデレイドが歌い出した。

大好きよったらあんただけ♪と歌うアデレイドを、2002年『ガイズ&ドールズ』月組公演で演じていた霧矢大夢さん(そう言えばアデレイドも、婚約者に結婚を14年待たれている役だな…)は、やはりさすがの風格だった。宝塚時代も評価されていた素晴らしい歌声で、カンパニーを引っ張っていた。ド真ん中の歌声に、確かな演技力、そしてバレエに裏付けされた美しいダンスとスタイル。男役時代は低く感じた身長も、女優として活躍する現在では気にならない、むしろ武器だ。

そんな霧矢さんと同時代の宝塚を生きた樹里咲穂さんも、エトワールに抜擢されるほど認められていた歌声そのままに、’60年代のアメリカのお母さんを演じきっていた。

マカフィー家は、樹里さんと今井さんを筆頭に歌が安定していた印象だ。歌が上手い方々に引っ張られて、全体の歌唱力も上がっている。カンパニーからそんな雰囲気が感じられた。

物語のカギを握るキム・マカフィー役の日高麻鈴さんは、伸びしろがたっぷりある。今でも、澄んだ歌声を持っていて、初めて聞いた時は神田沙也加さんのような歌声だなと思うほどだった。少し不安定な所がある者の、大人になりたい子供の精一杯を表現できていた。

スイートアップルの少年少女たちの歌声も、見違えるほど進化している。

神奈川公演の時は、まだしっかり音になじんでおらず、せっかくの男声と女声もなんだかうわついて感じられたが、大阪公演では地に足ついた歌声になっていた。女声の美しいソプラノと、男声の耳心地のいいテノールの対比が綺麗で聞きほれた。もちろん、ハーモニーも秀逸だ。

発展途上の歌声を完成され安定した歌声で引っ張っていく。バイバイのカンパニーには、そんな構造があるように思える。

物語に関する考察は前回のブログに書いた通りである。

今回もやっぱり、メイのパワフルさに会場は爆笑に包まれたけれど、私は笑えない。あんな親がいたらたまったもんじゃない。この先もきっと、アルバートはメイの呪いから解かれることは無いのだろうし、そんなアルバートを見捨てられないローズもかわいそうだ。もしこの先、アルバートとローズに子供ができて、その子に対してアルバートが「お母さんが第一。親の言うことは絶対」なんて教育をしようとする未来が見える。メイの罪は重いなぁなんて、描かれてもいない未来を思ってまたメイが嫌いになる。…多分、アルバートの暴走はローズがきっちり止めるんだろうけど。

1つ付け加えることがあるとするなら、バイバイのテーマの一つに『ワン・ラスト・キス』があることだ。物語の主軸となる曲のタイトルということだけでなく、いろいろな意味で鍵になっていると思う。最後の最後に、アルバートがローズにする口づけがその象徴ではないだろうか。

楽しいミュージカルだった。思想の偏りや、思春期特有の親とのぶつかり合いが描かれているものの、誰も死なないし誰も不幸にならない。舞台が踊っているようににぎやかで、暗い部分も全部笑えるくらい明るく描かれていた。コメディ要素にあふれている中でも、しっかりと伝わってくる社会風刺はさすがブロードウェイと言いたい。カラフルで華やかで、何度も見たいなと思える作品だった。

きっと、再演されたらもっと良くなる、もっといいものを見せてくれる。そう期待できる作品でもあった。できれば、同じキャストがいい。今回の出演された方の次回作にも期待したい。

あ~!いいものに出会えたなぁ…!