あおの世界は紫で満ちている

自分の趣味にどっぷり沈み込んだ大学生のブログです。歌舞伎と宝塚も好き。主に観劇レポートなど。

2023年六月大歌舞伎 (後編)

はじめに

さて、大本命の夜の部『義経千本桜』の木の実、小金吾討死、すし屋、そして川連法眼館。演目発表された時、飛び上がらんばかりに喜んだ仁左さまのいがみの権太だ。

私は片岡仁左衛門を観るために東京と関西を反復横跳びしていると言っても過言では無い。全ては後悔のない推し事のために。全てはいつか来るその日に悔いを残さないようにするために。本音を言えば通いたい。けれど、せまじきものは地方民だなぁ…と、悲しい地方大学生の性。東京遠征では1回の観劇が限界である。ので、いつもこの1回に全てをかけている。

私が、出演される舞台は可能な限り全て行こうと心に決めた贔屓の活躍する2023年六月大歌舞伎夜の部。この感想をつらつらと綴っていこうと思う。

(ちなみに前編はこちらです↓↓↓)

aoino-sabu.hatenablog.com


基本情報

六月大歌舞伎|歌舞伎座|歌舞伎美人www.kabuki-bito.jp

義経千本桜

   木の実

   小金吾討死

   すし屋

   川連法眼館

主な出演者(敬称略):片岡仁左衛門 片岡孝太郎 中村歌六 坂東彌十郎 中村時蔵 中村扇雀 尾上松緑 他

 

義経千本桜

まず三大義太夫狂言の1つ『義経千本桜』は、簡単に言えば「平家生存if」である。源義経が兄と不仲になり鎌倉に追われるように落ち延びる。その道中、源平合戦で死んだとされるも実は生き延びていた平知盛平維盛、平教経と関わり合い、真に平家を滅ぼすと言う物語だ。

そう、『平家物語』大好き芸人かつ平家強火担こと私のための物語である(違う)。こう聞くと、あ…難しい話かも…と思われるかもしれないが、実はそうでは無い。適度な笑い所もあり、楽しんで観られる。のに、心揺さぶられる。あぁ大好きだ。私はこの緩急のある『義経千本桜』が大好きなんだ。

今回上演される『木の実』『小金吾討死』『すし屋』は、「いがみの権太」と言う人物を主として通される時の鉄板の組み合わせだ。それぞれ単体で上演されることも多いが、木の実〜すし屋の流れで見る方が涙を搾り取られる。これは実体験した私が言うので間違いない。

木の実

いがみの権太が初登場する「木の実」は、入水自殺したとされる平維盛が生きているとの噂を聞いたその妻・若葉の内侍と息子・六代君が従者の若武者・小金吾を伴い旅をしている様子から始まる。従者とは言え元服前の前髪の幼さ残る小金吾と、小さな六代君。世間知らずが滲み出る若葉の内侍の様子は見ているだけで頼りない。木の実を拾って遊ぶ様子は可愛らしいし、茶屋で休む姿もほっこりするが、何せ頼りない。案の定、実家にも勘当されたロクデナシの「いがみの権太」に目をつけられ、路銀の20両を騙し取られてしまう。

憎い!オラついて居直り強盗のように金を騙し取り、小金吾をバカにして開き直るロクデナシ。なのに格好良いのがいがみの権太だ。仁左さまの悪役は絶品だ。でも、いがみの権太は生粋の悪役ではない。愛嬌があってどこか憎めないところもある。もう最低なヤツなのに、しょうがないなぁと笑ってしまうんだ。

若葉の内侍一行から金を騙し取った夫を責める小せんを逆に詰ったり、あまつさえ母親から金を騙し取ろうとする権太だが、憎めないのは子供に甘いからだ。小せんが「帰ろう」と言っても頑として聞かないのに、一人息子の善太郎が「帰ろう」と言えば破顔して帰ろうとする。手が冷たいと言っては握って息を吹きかけ温めるし、「おぶって」と請われれば背負う。ロクデナシだと言われても、息子のことは大事に思っているのだと分かる場面だ。小せんに対する愛も無い訳では無い。後ろ姿が綺麗だと言い、振り向かせるためにちょっかいをかける。

子供がそのまま体だけ大きくなったような人だと、そう言った印象を受ける。だから嫌いになれないし、愛嬌すら感じてしまうんだ。

引っ込みの時、刹那の家族団欒が、後から我々の涙を搾り取ることを忘れてはならない。

六代君役の種太郎くんも、善太郎役の秀乃介くんも小さくて可愛かった…。去年9月の秀山祭での初舞台の時より大きくなっていて、改めて子供の成長の速さに目を見張った。可愛い…すごく可愛い…見守っていきたい。

小金吾討死

権太に20両をゆすり取られたその日に、鎌倉方に見つかり追い回される若葉の内侍一行。踏んだり蹴ったりである。

舞台に登場した小金吾は、既に深手を負っている様子。それでも若葉の内侍と六代君を逃がすために奮戦する。小金吾だって、まだ前髪の残る子供なのに……泣くだろこんなん。

千之助くんの立ち回りは、少しぎこちなく感じた。けれど、「御台様は何処におわす…金吾はここにおりますぞ」「若様は何処におわす…金吾はここにおりますぞ」と絶叫する場面は涙無しに見られない。若葉の内侍、六代君との今生の別れは悲痛の色で染まっていた。

平家方の誰かが死ぬと、絶対に『平家物語』を初めとする源平物のくだりを思い出してしまって泣いてしまう。これもうオタクの性だ仕方がない。

立ち回りの若干のぎこちなさが無くなれば、きっともっと集中して観られる。そうしたらきっともっと泣けるだろう。これからの千之助くんの成長に期待だなぁ。

すし屋

すし屋でこんなに泣かされたのは初めてだ。自分でも引くほど号泣してしまった。

権太の実家であるすし屋には、弥助と言う若い奉公人がいる。権太の妹・お里との祝言を明日に控えており、和やかな雰囲気。特にお里はすっかり浮かれてしまっている。が、弥助はどこか心ここに在らずな様子。そこへ、権太が母親から金を騙し取ろうとやってくる。一悶着あるものの、無事に(?)金を騙し取った時、父であり店の主人である弥左衛門が、慌てた様子で帰ってくる。前の場で死んだ小金吾の首だけを持ち帰ってきたのだ。どうしてこんなことをしたのか?実は、奉公人の「弥助」は名を変え姿も変えた元・三位中将平維盛卿。源平合戦で死んだと思われていたが生き延びており、弥左衛門に匿われていたのだ。しかし、鎌倉の追手が迫っている。弥左衛門はたまたま見つけた小金吾の死体に目をつけ、維盛の偽首として差し出すために持ってきたのだ。

前半の見どころとしては、結婚を控えて嬉しそうで楽しそうなお里の様子。権太の厚顔無恥な騙りの様子とそれを許してしまう母・おくらの甘さ。奉公人としてはなよなよとして頼りない弥助が、実は維盛だと分かる場面の切り替えなどだ。

維盛役は錦之助さん。ここに1つの正解を見た気がした。維盛は、少し情けない …と言うか、浮気者の役だ。私は好きだが、あまり好まないという人も少なくないように思う。が、今回の錦之助さんの維盛は、優雅でしなやかで、都落ちした元貴族が奉公人としてその家の娘と結ばれ、偽りの人生を歩もうとしているのだな…と納得できた。柔らかな物腰と少しの世間知らずさ、そして何より為政者で支配者だったのだと分かる身のこなし。きっと、錦之助さんのニンなのだろう。べらんめぇな江戸っ子役の錦之助さんも好きだが、やんごとなきお方を演じる錦之助さんも好きだ。ところで、白塗りによって20歳は若返ったように思える維盛の出で立ちがあまりにも若々しく瑞々しくて、ご子息である、隼人さんに空目したのは内緒だ。恐るべしDNA……

続く中盤。小金吾の活躍で逃げることができた若葉の内侍と六代君が、一夜の宿を借りようとすし屋の戸を叩く。そう、ここに維盛卿一家が感動の再会を果たすのだ。これにショックを受けるのがお里だ。好きな男と結婚できると思っていたら、名前も立場も全く違う偽りのもので、かつ、とんでもない身分違いの恋をしたと言う事実に号泣する。現代なら結婚詐欺で訴えられてもおかしくない話だ。「弥助」への思いを断ち切り身を引くお里は健気で可哀想だ。

と、そこへ「鎌倉から詮議の役人が来た」との知らせが入る。急いで出て行く維盛一家。が、しかし、実はこの話の一部始終を聞いていた権太が「こいつらを差し出せば金になる」と、その後を追う。

うん、ここまでの展開だと、男が揃いも揃ってろくでもない。本当に心からお里が可哀想だ。

壱太郎さんのお里はとっても可愛い。10代の少女に見えるくらい可愛らしい。『神霊矢口渡』で、同じく落ち延びた位の高い武将に恋をするお舟にも通じる何かがある。だから壱太郎さんのお里もお舟も好きなんだ。

さて、終盤。鎌倉から詮議のためにやってきた梶原景時ら一行がズカズカと土足で踏み入り「維盛の首を出せ」と言う。弥左衛門は意を決して小金吾の首を差し出そうとするが、実はこれ、弥左衛門は露ほども知らないが、中身がすり替わってしまっている。

首の入っていない桶を差し出そうとした時、権太が戻ってくる。しかも、桶を抱えて。しかも、縛り上げた若葉の内侍と六代君を伴って。曰く「維盛の首を取った。若葉の内侍と六代君も捕まえた」との事だ。しかしどうも、権太の様子がおかしい。一見、いつも通りの乱暴者のようだが、何かをこらえている様子も伺える。

それはさておき検分の結果、維盛一家と認められ、権太は源頼朝が身につけたという陣羽織を下賜され、梶原景時ら一行は若葉の内侍と六代君を引っ立てて帰る。

これに怒ったのが弥左衛門。自分の息子の行動が許せず、怒りに任せて刺してしまう。

実の親に刺され、虫の息の権太が善太郎の笛を吹く。けれど、腹を刺されているので上手く吹けない。1度目は弱々しく、2度目も幽かな音。3度目にようやく「ピィー」と力強い音が出るという趣向にはこれ以上ないくらい涙を搾り取られる。

そして、笛の合図に現れたのは、なんと平維盛と若葉の内侍、そして六代君である。え!?生きとったん??と思われるであろう。検分したんちゃうん??とも思われるかもしれない。が、歌舞伎における「検分」なんて、正しいことの方が少ないと言っても過言では無い(ふぁ?)。『寺子屋』でも『盛綱陣屋』でも、偽首を本物だと言うのが常だ。もちろん例に漏れず『すし屋』もその様である。偽首を差し出されるのは百も承知。その上で鎌倉方は出家さえすれば維盛を殺す気は無いのだと伝える。うぇぇ…でも若葉の内侍と六代君は捕まったやん……と思われたそこのあなた。私も初見の時はそう思った。実は先程引っ立てられた2人は、若葉の内侍と六代君の着物を着た、小せんと善太郎。つまり権太の妻子である。まぁ今回は、秀乃介くんがあまりにも小さいので目隠しがズレてしまっていたし、トテトテ歩く姿を見て、種太郎くんじゃない…秀乃介くんや……って秒でわかってしまったのだが。

そう、権太は維盛一家を捕まえに行ったのではなく助けに行ったのだ。小悪党が善人の心を取り戻して死んでいく、これが『義経千本桜』の『すし屋』である。

急展開すぎん??と、初見の時は私も思った。そもそも初めて『すし屋』を見た時は、『木の実』も『小金吾討死』もなく『すし屋』を単体で見たので余計思った。あぁ、歌舞伎のお決まりのやつや…と。しかし今回改めて、『木の実』からの流れで見るとどうだろう。びっくりするくらい号泣した。それは、仁左さまの演技によるものが大きいと思う。

仁左さま…片岡仁左衛門丈は、芝居に情報を乗せるお人だ。表情や仕草で、型以上の感情を乗せて物語る。これをうるさいと思う人もいるだろう。喋りすぎだと、もっと型通りにしてくれと思う人もいるかもしれない。だけど私はこの仁左さまの芸を心から愛している。

『木の実』で見せた家族愛。善太郎に向けた優しい微笑み、子供が可愛くてしょうがないといった様子を見た上で迎える『すし屋』の場。若葉の内侍と六代君にそれぞれ扮した小せんと善太郎の顔を上げさせるときの堪えたような表情。上手く鎌倉方を騙せたという意味での「やった!やったぞおやっさん!してやった!(ニュアンス)」と満面の笑みで父親に報告する様子は、直後に意味を取り違えた父親に刺殺されるのも相まって涙を誘う。個人的に最も泣ける演目『寺子屋』に匹敵するくらい泣いた。客席の後ろからも前からも横からも鼻をすする音が聞こえてきたので、号泣していたのは私だけでは無い。と信じてる。ところで、Twitter上では「泣いた〜」「ギャン泣き」の声で溢れているのに、いざ参戦するとこんなに泣いてるの私だけじゃね?って錯覚に陥るのなんなんだろうな…と言う余談。

仁左さまの凄いところは、涙を誘う演技だけでは無い。

15代目片岡仁左衛門は御歳79歳。弥左衛門役の歌六さんでも72歳、妹役の壱太郎さんは33歳。もちろん、歌舞伎の世界では70代が20代を演じることは珍しくない…ってかほとんどそれだ。実年齢と役の年齢が合うことの方が少ない(過言かも)。それを承知で見るのが客だ……訓練されすぎでは?

でも!今回の仁左衛門権太は、歌六さんの息子に見えたし壱太郎さんの兄に見えた。凄い。20歳は若く見えたんだ。これは過言じゃない。

いがみの権太をやるに当たって減量されたそうだけど、それにしたってスゴすぎる。太もものハリが80代目前の方のそれじゃない。仁左さますごい(小並感)。いつまでもお元気でいてほしい。仁左さまがお出ましになられるなら、私はどこまででも飛んでいく所存だ。だって、人間国宝片岡仁左衛門は唯一無二の当代一の立役なんだから。

川連法眼館

四の切りが好きでない歌舞伎オタクなどいないだろう(多分)。

誰がやってもモフモフ可愛い狐忠信。最高かて。と言いつつも、音羽屋型のは初めて観た。宙乗りのない四の切りは初めてだ。最後、嬉しそうに桜に登る紀尾井町可愛かった。

以上です。

うん。短いね。さっきまであんなにグダグダ長く書いてたのにね。あらすじの説明もなしに小学生並みの感想で終わらすのが観劇ブログかってな。分かる。私ももっと書きたかった。でもしんどいんだ。

四の切りは、狐忠信は、澤瀉屋お家芸だ。今の猿翁さんが形を作って、今の猿之助も当たり役としている。と、言えば察して欲しい。四の切りを観て四代目を思い起こさないなんて無理なんだ。澤瀉屋型と音羽屋型を比べたら、どうしたって馴染みのある澤瀉屋型が好きだなって思ってしまう。もちろん音羽屋型の狐忠信の心情を押し出すようなやり方も好きだ。でも、でもどうしても求めてしまうんだ、四代目の宙乗りを。

今、何も分からない今、この状況で四の切りに関する詳しい感想を綴ることは、私の心情的に出来ない。こんなことしか書けない筆者を許して欲しい。第1報から1ヶ月経っても、いや、1ヶ月経ったくらいでは、癒えないんだ。

最後に

今月の大歌舞伎。日程的にだいぶ無理をしての参戦だったが、とっっっっても満ち足りたものであった。

吃又も、千本桜も、求めていた以上のものが観られた。最高だ。ありがとう歌舞伎座。ありがとう夢の国。

私は、やっぱり歌舞伎が大好きだ。大好きなんだ。ずっと応援していたい。好きだから、何があっても離れられないんだ。

贔屓が出続ける限り、私が劇場通いをやめることはないだろう。

 

久しぶりの観劇レポ。鉄は熱いうちに打てとはその通りだな…観終わってすぐ書かなきゃ書き上がらない。下書きに溜めてる記事もあるけれど、いつ書き上がることやら…(書けよ)

と言うわけで(??)ここまでお付き合い頂きありがとうございました!また次の記事でお会いしましょう!!